「灯船」15号批評会報告記
『灯船』というのはコスモス短歌会の会員で昭和40年より以前に生まれ、発行当時80歳を上限に区切ったメンバーで構成された68名を同人とする結社内同人誌です。現在15号まで発行し、年四回批評会を行っています。
先月、11月23日(土)10時30分からみっちり17時30まで、名古屋のウインクあいちにて15号の批評会が行われました。
当日のゲストは名古屋在住「まひる野」編集委員の広坂早苗氏、参加者は桑原、鈴木、木畑、風間、宮里、小山氏の選者をはじめとした26名。
福岡支部からも数人、同人として参加していますので、私、中村の作品を中心に少しご紹介いたします。
指名された参加者が評を行った後、意見交換、その後広坂氏が総括的なコメントをする形で行われました。
「うすあを」 12首
〇六十代後半になって大手術をした夏の出来事や見たものを詠んでいます。
桑原正木紀評
・「梅雨終はるころに降り出す大雨が荒れるがごとく六十後半」は、出だしの歌として作者の状況が端的に分かりよいが、「荒れるがごとく」ではこれからのことのように読めて錯覚するので過去であることをはっきりさせる。
・「うすばねをあまた並べて樹液吸ふ蟬しづかなり しんしんと夏」は静かな情景を詠んでいるが「あまた」と数を出すことによって蝉の啼き声を思わせてしまうので表現を変える。
広坂早苗評
・出だしの歌は作者を知らない人間にも状況が伝わり良いが、表題の「うすあを」を使った歌が三首あり多すぎる。「玉花のかたちのままに枯れてゐるうすあをのこる夏のあぢさゐ」は良いと思う。しかし、途中に孫の歌が入ってきて雰囲気を壊している。孫歌は入れるべきではなかった。
もうひとり、お褒めの言葉を頂いたユリユリさんこと栗山由利さんの評も紹介します。
「猫道の猫」 12首
〇作者の通勤路にあって猫道と名付ける小径に暮らす子猫の成長を中心に、猫に関する思いが詠まれています。
坪井真理評
・「梅雨を越え夏を越えさせお母さん猫はほんとによくがんばつた」、「猫好きの父がをしえてくれた花 病室から見たキバナコスモス」などが、猫好きの思いが出て柔らかく良い。
早川照子評
・「太陽がかくれてしまふその前に早くおかへりけふの寝床へ」は前後関係から猫のことを詠んでいることが分かるが、このままでは子供のことを詠んでるとも読めて一首独立性に欠ける。
広坂早苗評
・とてもやさしい童話のような一連で、「後ろ手に門を閉めたらちやうど合ふ二軒となりの森さんちの子」など場面の作り方が巧みであり言葉使いも柔らかくて良い。早川氏の指摘には、対象が何であっても読める歌であるが、この歌はそれでも良い歌である。
他にも前出の「梅雨を越え~」の作品について三句のお母さんで切れる読み方もあるという指摘がありました。「お」を取ればということでしたが、それだけでは収まらず由利さんは頭を抱えています。
最後に、「灯船」発行人の桑原正紀氏の一連がとても素晴らしいと思ったので、簡単に紹介します。
「はるけき連鎖」 12首
〇蟬声の途絶えた晩夏の園で、白く照るひかりを見て死を連想した、作者の五歳の時の火葬を見た体験を軸に「生と死」をめぐる深い思いを詠んでいます。全体が素晴らしく、一首一首を紹介するより広坂さんのまとめの評を紹介します。
広坂早苗評
・不思議な時空を持った一連。はるかなつながりから自分を見ている。美しくて、ちょっとまがまがしい不吉な感じがある。それが綺麗な言葉で繋がれ詩的な雰囲気を醸している。
その他広坂さんから
・連作を一つのテーマで読むのは概観になりやすく、淡いスケッチになりがち。一つのテーマに焦点を当ててそこを中心に詠むような工夫を。
など、貴重なアドバイスをいただいた。
その後、8時まで懇親会。さらに、数名と共に福岡支部のメンバーも鈴木氏のお誘いにより短歌の聖地の中華料理店「平和園」で二次会に突入。
有名歌人が歌を載せているアルバム数冊を見ながら歓談。伊藤一彦氏、山下翔氏などの名前も発見。おもしろ短歌形式で、各自でばらばらの五・七・五・七・七をつくり、それをシャッフルして短歌を作り、アルバムに参加者全員が名前をサインして一日を終えた。
なお平和園と歌人との繋がりに関しては田中槐氏のブログhttps://sunagoya.com/jihyo/?p=1664に詳しく紹介されています。
(中村仁彦)
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